
「見えない被害」をどう把握するか?
昨今の自然災害は、港や護岸、水中の構造物に深刻な影響を及ぼしています。
しかし、道路の冠水や建物の損傷は目で見て確認できても、水面下にある護岸の基礎や港湾構造物の損傷は人の目だけでは簡単に把握できないのが現状です。
増水した河川や高波の残る海域に、人が立ち入ることはかなり危険であり、被災直後の初動調査ほど「人が入れない」という制約が重くのしかかります。
こうした「見えない被害」を可視化する技術として、近年急速に実用化が進んでいるのが、「空中ドローン(UAV)」と「水中のドローン(ROV)」です。
両者はもともと平常時の点検業務のために発展してきた技術ですが、被災地という極めて過酷な環境でも、その能力を存分に発揮しています。
当社SeaChallengeのように日常的にドローンを扱う点検会社にとって、災害時に「自分たちがどう貢献できるか」というのは避けて通れないテーマです。

「空から見る」UAVによる被災状況調査
国土交通省による災害時ドローン活用の実績
国土交通省東北地方整備局は、平成28年の台風10号による被災状況調査を主な題材として、ドローンを用いた撮影手法に関する知見をまとめています。
それによると、風水害や地震などの自然災害が発生した場合、道路・河川・港湾等の被災状況把握や復旧活動において、地方整備局が大きな役割を担っており、“立ち入りが困難な被災箇所の映像”はその状況把握に果たす役割が非常に大きいとされています。
一方で、被災状況調査における効果的な撮影手法は残念ながらまだ確立されておらず、ドローン自体が日進月歩で進化を続けている途中であることも指摘されています。
橋梁・港湾構造物での活用事例
鉄道分野でもドローンの活用が進んでいます。
JR九州では、豪雨や台風によって発生した土砂流入や橋梁の流出といった被災状況の確認に、ドローンによる空撮が実際に使われました。
また、国土交通省が定める道路橋定期点検要領では、ドローンで撮影した映像による点検が2019年から認められており、平常時の点検技術がそのまま災害時の迅速な状況把握にも応用できることを示しています。
近年ではAI搭載型のドローンが障害物を自動で回避して、高精細な画像や3次元点群データを取得するといった事例も増えており、被災地のように足場が不安定で近づきにくい現場ほど、こうした自律飛行技術の恩恵は大きくなるといえます。
実際、ドローンによる橋梁の画像計測技術が国土交通省の点検支援技術性能カタログに掲載される事例もあり、当社SeaChallengeが行っているような平常時の点検で信頼性が確認された技術が、そのまま災害時の調査にも横展開されている状況がうかがえます。

「水中を見る」ROVの役割
東日本大震災における水中探査ロボットの活用実績
2011年の東日本大震災では、行方不明者の捜索、瓦礫の撮影、地形調査のために複数の水中探査ロボット(ROV)が導入され、東京工業大学が開発した機体や、国内外メーカー製のROVが被災地の海域で使用されました。
2011年4月、岩手県陸前高田市の広田湾では、国内のNPOと米国の研究機関による日米合同チームが3台のROVを使った行方不明者の捜索を実施。
現場では、ROVを運用できる規模の船舶が確保できず、当初計画していた沖合での捜索を断念し、桟橋や岸壁からの捜索に切り替えざるを得なかったものの、別の水中ロボット(RTV)を用いた捜索では、行方不明者の発見につながった事例も報告されています。
これらは、技術そのものの性能だけでなく、被災地においてその技術を“どう運用するか”という現場対応力が問われることを示す事例といえます。
「ROVとAUV」遠隔操作と自律型の違い
水中ロボットには、操縦者が有線ケーブルを通じて遠隔操作する「ROV」のほかに、内蔵コンピューターとセンサーによって自律的に周囲の状況を判断しながら動く「AUV」と呼ばれる種類もあります。
ROVは船から離れた場所での作業が難しいという制約がある一方、AUVは船から独立して広い範囲を自動で調査できるのです。
また、海上保安庁が海底の地質調査に、自衛隊が機雷の捜索にAUVを利用している例もあり、将来的には災害時の広域調査にもこうした自律型の機体が活用されていくはずです。
平常時の点検技術が災害時にも応用できる理由
国土交通省が実施している水中維持管理ロボットの実証事業では、水中ロボットが自己位置を推定しながら、以前発見した損傷箇所を継続的に確認する技術が検証されています。
こうした平常時の橋脚・護岸点検で培われた技術は、被災後に「損傷がどこまで進んでいるか」を迅速に把握する場面でもそのまま活用できるのです。
近年、政府資料でも、ROVは水産・環境調査・災害対応・観光など幅広い領域で中小・スタートアップ企業の参入が進んでいるとされており、災害対応は水中ロボット活用の重要な用途の1つとして位置づけられています。

災害対応を阻む「運用面の壁」
災害時にこれらの技術を実際に活用しようとすると、平常時にはない運用上の壁に直面します。
東日本大震災でのROV捜索では、機体の性能以前に「現場まで運ぶ船舶が確保できない」という問題が発生し、当初の計画を変更せざるを得ませんでした。
また、被災地では地上の通信インフラそのものが損壊しているケースも少なくありません。
近年では衛星通信とドローンを組み合わせることで、通信インフラが使えない状況でも被災状況の把握とリアルタイムでの情報共有を可能にする取り組みも進んでいます。
それにより、山間部や沿岸部など、通常の通信が届きにくい広域エリアでも安定した運用ができるようになれば、道路啓開や復旧活動の初動をより早めることにつながります。
機体の性能だけでなく、船舶・通信・人員をどう組み合わせて現場に投入するかという「運用設計」こそが、災害対応における実質的な課題であるといえるのです。

ドローンの使い分け
被災状況を把握する際、空中と水中では求められる技術がまったく異なります。
ドローン(UAV)は広範囲を短時間で見渡すことに長けている一方、水面下の状況までは把握できません。
逆にROVは目視できない水中の損傷を直接確認できますが、運用には船舶や係留設備が必要になり、機動力ではUAVに及ばないといえます。
実際の災害対応では、どちらか一方ではなく、両者を組み合わせて使うことで初めて「陸上から水中まで」の被災状況を一気通貫で把握できるのです。
両者の特性は以下のとおり。
| 項目 | UAV(空中) | ROV(水中) |
| 主な確認対象 | 護岸上部・道路・橋梁・広域の被災範囲 | 護岸基礎・橋脚・港湾構造物の水中部分 |
| 強み | 広範囲を短時間で撮影できる | 目視不可能な水中の損傷を直接確認できる |
| 制約 | 水中や濁水下の状況は把握できない | 運用には船舶や係留設備が必要 |
| 災害時の主な用途 | 被害範囲の早期把握、復旧計画の立案 | 構造物基礎の損傷確認、行方不明者捜索 |

SeaChallengeができること
当社SeaChallengeは、ROVによる水中調査と、UAVによる上空からの点検の両方を日常業務として行っています。
「人が立ち入れない場所の状況を、安全かつ迅速に“見える化”すること」
点検データを継続的に記録しておくことは、被災後の復旧計画を立てる自治体や施設管理者にとっても、判断材料としての価値を持ちます。
「被災後にどこまで壊れたか」を正確に把握するためには、「被災前がどうだったか」という基準となるデータが不可欠です。
そうしたデータ収集やそれに伴う調査のノウハウこそが、当社SeaChallengeが提供できる、他にはない価値だと考えています。
まとめ
・豪雨や高潮による被害は、目に見える部分だけでなく、水面下の構造物にも及ぶ。
・ドローンという「人が入れない場所を見る技術」は被災状況の早期把握だけでなく、捜索活動や復旧計画の立案においても重要な役割を果たしてきた。その一方で、東日本大震災の事例が示すように、機体の性能だけでは災害対応は完結せず、船舶・通信・人員をどう組み合わせるかという運用面の備えが同じくらい重要になる。
・平常時の点検データの蓄積が、災害時の迅速な判断を支えるという点で、点検会社の日常業務そのものが防災の一部であるといえる。
当社SeaChallengeは、これからも港湾・護岸・水中構造物の点検を通じて、平時のデータを積み重ねていきます。それが、次に大きな災害が起きたときの「初動の速さ」につながると考えているからです。

参考文献
- 国土交通省東北地方整備局「ドローンを用いた被災状況動画撮影のポイント集」
- 国土交通省「ドローン活用事例(道路局/鉄道局)」
- KDDIスマートドローン株式会社「ドローンによる橋梁・道路の点検」
- 日本船舶海洋工学会「海中システム技術・海洋環境管理技術に関わる震災・津波・原発事故の復旧・復興支援と防災に関する研究委員会 最終報告書」
- 国土交通省「次世代社会インフラ用ロボット(水中維持管理ロボット)実証結果」
- 国土交通省「海における次世代モビリティに関する最新の利用動向と技術開発」
- 東京大学「自律型海中ロボット」
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