なぜ海の中の鉄は錆びないの!?犠牲陽極と電気防食の仕組み
みなさんは、海の中に立っている鉄の柱を見たことがあるでしょうか?
桟橋を支える鋼管杭(こうかんぐい)や、岸壁をつくる鋼矢板(こうやいた)は、鉄のかたまりです。
普通、鉄くぎを海水につけておくと、あっという間に真っ赤に錆びてしまうのに、港の鋼構造物は何十年も海水に浸かったまま使われ続けています。
不思議だと思いませんか?
実はここに、前回の記事で解説した「イオン化傾向」の知識が活きています。
前回は理論編、今回はその実践編です!
▲前回記事はこちら
イオン化傾向と「錆びる」の正体

前回の記事で、金属には「イオンになりやすい順番=イオン化傾向」があることを解説しました。乾電池やメッキは、この性質を利用した技術でしたね。
鉄が錆びるという現象も、実は電池と同じ仕組みで起きているんです。
鉄が海水に触れると、鉄の表面で小さな電池ができて、鉄がイオンとなって海水中に溶け出していく——これが腐食、つまり錆の正体です。
「錆びる=鉄が電気を放出しながら溶けていく」とイメージするとわかりやすいです!
ここで逆転の発想が生まれます。
鉄が電気を放出する側ではなく、「電気を受け取る側」になれば……鉄は溶けない!
この考え方を利用した防錆技術が「電気防食(でんきぼうしょく)」です。
犠牲陽極 — 身代わりになって溶ける金属
では、どうやって鉄を「電気を受け取る側」に変えるのでしょうか?
答えは超シンプルで、「鉄よりもイオン化傾向の大きい(=溶けやすい)金属」を鉄にくっつけておくのです。
イオン化傾向の大きい金属と小さい金属をつないで海水に入れると、電池ができます。
このとき先に溶けていくのは、イオン化傾向の大きい金属のほう。
海洋構造物では、アルミニウムを主成分とした合金(アルミ合金陽極)などがよく使われます。
アルミニウムは鉄よりイオン化傾向が大きいので、鋼に取り付けると、鋼の代わりにアルミ合金のほうが溶けてくれるんです!
自分が身代わりに溶けることで本体の鋼を守る——この健気な役割から、この金属ブロックは「犠牲陽極(ぎせいようきょく)」と呼ばれています。
守られる側の鋼は電気を受け取る側(陰極・マイナス極)になるため、この方式は「流電陽極方式」という電気防食の一種に分類されます。
また、電気防食には外部の電源装置から電気を流して守る「外部電源方式」もありますが、港湾の構造物でよく見かけるのは、この犠牲陽極方式です。

身近な例を挙げると、船の底やスクリューまわり。ココにも同じ仕組みの金属板が取り付けられているんです。
船を陸に揚げたとき、船底にボコボコと付いた四角い金属ブロックを見たことがあるかもしれませんが、あれも船体を錆から守る犠牲陽極なんです。

ここで1つ補足です。
電気防食がしっかり効くのは海水に浸かっている部分のみ。潮の満ち引きで海面から出たり入ったりする部分や、波しぶきがかかる部分は、塗装などの「被覆防食」と組み合わせて守るのが一般的です。
犠牲陽極は「減っていく」— だから点検が必要
犠牲陽極は身代わりに溶ける金属ですから、時間とともに必ず痩せて(消耗して)いきます。取り付けた当初は角ばったブロックだったものが、年月とともに丸く小さくなっていくわけです。
これが完全に溶けきってしまえば、当然もう鋼を守ることはできません。
気づかないうちに陽極がなくなっていたとなれば、そこから鋼本体の腐食が一気に進んでしまいます。
だからこそ、犠牲陽極は「取り付けたら終わり」ではなく、「どれくらい消耗しているか」を定期的に潜水調査で確認することがとても大切なんです。
私たちSeaChallengeが行っている港湾構造物の点検の1つが、まさにこの陽極の健康診断です。

まとめと次回予告
・鉄の腐食は、鉄が電気を放出しながら溶けていく電池のような現象。
・鉄よりイオン化傾向の大きい金属(アルミ合金など)をつなぐと、そちらが身代わりに溶けて鉄が守られる(犠牲陽極)。
・犠牲陽極は消耗品。定期的な点検・調査が欠かせない。
次回は、その点検の中身に踏み込みます。
「陽極消耗量調査とは!?」「陽極の寿命はどう測る!?」をテーマに、潜水調査の現場で犠牲陽極の残りの寿命をどのように診断するのかをご紹介します。どうぞお楽しみに!
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