
前回は、ブルーファイナンスとブルーボンドの定義、グリーンボンドとの違いを整理しました。
今回は、セーシェル共和国や国内企業・自治体によるブルーボンドの発行事例、フレームワーク策定からセカンドパーティオピニオン(SPO)取得に至る発行プロセス、そして「ブルーウォッシング」を避けるための実務上のポイントを解説していきます。

海外のブルーボンド発行事例
ブルーボンドは2018年に世界で初めて発行されて以降、政府系機関を中心に発行事例が積み上げられてきました。
世界初のブルーボンドは、2018年10月にインド洋の島国セーシェル共和国が発行した国債で、発行規模は1,500万米ドルでした[2018年時点]。
調達資金は、海洋保護区の拡大や漁業ガバナンスの改善など、同国の海洋経済の持続可能な発展に充当されています。
また、観光業と漁業が主要産業であるセーシェル共和国にとって、海洋環境の保全は経済成長そのものと直結する課題であったことが背景にありました。
さらに2019年には北欧投資銀行が、北欧・バルト海地域として初となるブルーボンドを発行。
海洋保護や水問題対策に資金使途を限定した債券で、発行額は20億スウェーデン・クローナ(当時のレート換算で約2億3,400万米ドル相当、2019年時点)、年限は5年でした。
アジアにおいては2020年9月に初めて中国銀行がブルーボンドを発行しています。
米ドル建てとオフショア人民元建ての2本立てで、合計約9億4,250万米ドル相当を調達し、下水処理や洋上風力など海洋関連プロジェクトに充当されています。
そして2021年9月にはアジア開発銀行も、豪ドル建てとニュージーランドドル建ての2本立てで初のブルーボンドを発行しました(合計約3億米ドル相当)。
政府・国際機関に加え、商業銀行や開発金融機関も発行体に加わる形で、発行事例が広がっているのが現状です。

国内のブルーボンド発行事例
日本国内でも2022年以降に、企業や自治体によるブルーボンド発行が始まっています。
企業による発行事例
国内で初めてブルーボンドを発行したのはマルハニチロ株式会社。
同社は2022年11月、環境持続型の漁業・養殖事業に資金使途を限定した無担保社債(発行額50億円、期間5年、表面利率0.55%)を発行しました[2022年時点]。
調達資金は、富山県入善町で三菱商事と共同で進めるアトランティックサーモンの陸上養殖事業に充当されています。
そして発行にあたっては、格付投資情報センター(R&I)からグリーンボンド原則に沿う適格性の確認とともに、IFCブルーファイナンスガイドラインへのブルー適格性の確認も取得。
需要は発行額の1.2倍超に達し、生命保険会社や地方銀行など18件の投資表明が集まったと報じられています。
その後、栗田工業株式会社が2025年8月にブルーファイナンス・フレームワークを策定し、日本格付研究所(JCR)から最上位評価にあたる「Blue 1(F)」の評価を取得したうえで、2025年9月にブルーボンドの発行条件を決定。
調達資金は、半導体向け超純水供給事業に係る設備投資に充当される計画です。
その他、メタウォーター株式会社も、ブルーファイナンス・フレームワークについてDNVビジネス・アシュアランス・ジャパンからセカンドパーティオピニオンを取得しています。
自治体による発行事例
自治体による発行では、岩手県が2023年7月に、ブループロジェクトを資金使途に含む「グリーン/ブルーボンド」を発行しました。
ブループロジェクトを資金使途に含む債券フレームワークを策定した地方公共団体としては、全国で岩手県が初めてとされています。
日本格付研究所(JCR)からグリーンとブルーのそれぞれで最上位評価にあたる評価を取得しており、岩手銀行や東北銀行などの地域金融機関が投資しています。
その後、千葉市が2023年12月、下水道施設や浄化センターの整備等、ブルー事業のみに使途を絞ったブルーボンドを発行しており、資金使途をブループロジェクトのみに限定した単独のブルーボンドとしては、全国で千葉市が初めての発行とされています。
これまでの主な発行事例を時系列で整理すると、以下のようになります。
| 時期 | 発行体 | 概要 |
| 2018年10月 | セーシェル共和国 | 世界初の国債型ブルーボンド、1,500万米ドル |
| 2019年 | 北欧投資銀行 | 北欧・バルト海地域初、海洋保護や水問題対策が使途 |
| 2020年9月 | 中国銀行 | アジア初、約9億4,250万米ドル相当 |
| 2021年9月 | アジア開発銀行 | ADB初のブルーボンド、合計約3億米ドル相当 |
| 2022年11月 | マルハニチロ株式会社 | 国内初の企業発行、50億円、陸上養殖事業に充当 |
| 2023年7月 | 岩手県 | ブループロジェクト含む債券として地方公共団体初 |
| 2023年12月 | 千葉市 | 使途をブルー事業のみに限定した単独ブルーボンドとして自治体初 |
| 2025年9月 | 栗田工業株式会社 | JCR「Blue 1(F)」評価取得、半導体向け超純水供給事業に充当 |
2018年から2022年までに世界で発行されたブルーボンドの累計額は約50億米ドル。
これはグリーンボンド市場全体の規模と比べるとまだ小さく、今後の実務者ガイドの普及とともに、発行体・発行額の両面での拡大が見込まれるでしょう。

発行プロセスとセカンドパーティオピニオン(SPO)機関
ブルーボンドの発行は、フレームワークの策定から資金充当後のレポーティングまで、一連のプロセスに沿って進められています。
発行体はまず、調達資金をどのブループロジェクトに充当するかを定めた「ブルーファイナンス・フレームワーク」を策定し、このフレームワークが、ICMAグリーンボンド原則やIFCブルーファイナンスガイドラインなど国際的な基準に適合しているかどうかについて、独立した外部評価機関から意見(SPO:セカンドパーティオピニオン)を取得するのが一般的な実務となるのです。
ちなみに、国内では格付投資情報センター(R&I)や日本格付研究所(JCR)、海外機関ではDNVなどがSPOを提供しています。
発行後は、調達資金の充当状況と、プロジェクトによって得られた環境改善効果について、年1回程度の頻度で継続的に開示することが求められ、このレポーティングを通じて、投資家は資金が当初の説明どおりに使われているかを確認できる仕組みになっているわけです。
前回で触れた4つの核となる要素「資金使途」「プロジェクトの評価と選定のプロセス」「調達資金の管理」「レポーティング」は、この一連の流れに対応。
発行体にとっては、社債発行という枠組みの中でサステナビリティ戦略を対外的に説明する機会にもなる一方、SPO取得や継続的な開示には相応の準備期間とコストがかかる点も踏まえておかなければなりません。
ブルーウォッシング回避のポイント
環境訴求が実態を伴わない「グリーンウォッシュ」と同様の問題が、海洋分野でも起こり得ると懸念されています。
実際の環境改善効果が乏しいにもかかわらず、海洋保全に貢献しているかのように資金調達や広報を行うことは「ブルーウォッシング」と呼ばれています。
グリーンウォッシュの考え方を海洋・水分野に当てはめたものとすれば理解しやすいでしょう。
これを避けるための実務上のポイントとしては、次のような点が挙げられます。
①資金使途を具体的なプロジェクト単位まで開示し、抽象的な表現にとどめないこと。
②フレームワークの策定段階でSPOなど独立した第三者評価を取得し、国際原則との適合性を客観的に示すこと。
③発行後も資金充当状況と環境改善効果を定期的にレポーティングし、開示を一度きりで終わらせないこと。
④実務者ガイドが除外対象とする非再生可能な資源採掘や、地域社会への負の影響を伴う事業を資金使途に含めないよう、選定プロセスを明確にしておくこと。
こうした資金充当状況のレポーティングには、対象プロジェクトの環境改善効果を裏付ける現況データが欠かせません。
港湾構造物の点検や藻場のモニタリングなど、継続的な水中調査によって得られるデータは、ブルーボンドのインパクトレポーティングを支える基礎情報の1つとなっているのです。

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ブルーボンド発行後は、資金充当状況と環境改善効果を継続的にレポーティングすることが、ブルーウォッシングを避けるうえで、とても重要になります。
当社は、発行後のモニタリング・レポーティング業務についても、以下のような形で支援が可能です。
- 港湾構造物や藻場の定期点検・モニタリングによる、年次レポート用データの継続的な取得。
- 水中の視界不良など、従来調査が難しかった条件下でも鮮明な映像・データを取得できる調査技術。
- 調査結果のデータ解析・レポート化による、セカンドパーティオピニオン機関や投資家向け説明資料の作成支援。
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参考文献
・ICMA, IFC, UNEP FI, UN Global Compact, ADB「Bonds to Finance the Sustainable Blue Economy: A Practitioner’s Guide」[2023年9月]
・栗田工業株式会社「ブルーボンド発行に向けた『ブルーファイナンス・フレームワーク』の新規策定に関するお知らせ」[2025年8月]
・全国地方銀行協会「地方銀行における環境・気候変動問題への取り組み」(環境省資料)
・日本格付研究所(JCR)ブルーファイナンス評価関連資料