2030年目標と企業に求められる対応を解説
近年、企業のサステナビリティや環境経営の分野で「ネイチャーポジティブ」という言葉が急速に注目を集めています。一見すると難しそうに思える言葉ですが、実は私たちの暮らしや今後の経済活動を大きく揺るがす、きわめて重要なテーマです。
本記事では、ネイチャーポジティブの基礎知識から、世界的な新潮流である「GBF」や「TNFD」が企業に与える影響までを分かりやすく解説します。
ネイチャーポジティブとは?定義と背景
「ネイチャーポジティブ(自然再興)」という言葉を耳にする機会が増えましたが、その正確な意味をご存じでしょうか。ここでは、言葉の定義と、いまこの概念が必要とされている背景について解説します。
「自然を守る」から「自然を増やす」への転換
これまでの環境対策は、「これ以上自然を壊さない」「環境への負荷を減らす」というマイナスをゼロにする考え方が中心でした。もちろんそれも重要ですが、現在の深刻な地球環境を前に、それだけでは不十分であるという認識が強まっています。
そこで生まれたのが、ネイチャーポジティブという考え方です。
これは「自然の損失を止めるだけでなく、失われた自然を回復させ、より豊かな状態へと増やしていくこと」を目指しています。
例えるなら、家計の赤字を減らすだけでなく、収入を増やして黒字に転換するようなイメージです。減少を止めるだけでなく、右肩上がりに回復させていくことが、これからの世界の共通目標となっています。よく「カーボンニュートラルの自然環境版」と表現されることもあり、そう捉えると理解しやすいでしょう。
私たちの経済を支える「生態系サービス」
私たちは普段、自然の恩恵を当たり前のように受けています。森林は水を蓄えて川へ豊かな水を運び、海は魚介類を育て、干潟や藻場は多くの生き物のすみかとなっています。また、サンゴ礁は高波から海岸を守り、湿地は大雨の際に洪水を和らげる役割も果たしています。
こうした自然からの恩恵は「生態系サービス」と呼ばれています。
しかし今、世界中で森林の減少、海洋汚染、生き物の絶滅、気候変動が加速し、この基盤が急速に失われています。
魚が減れば水産業や食品産業が立ち行かなくなり、水不足が進めば工場の操業にも影響が及びます。自然環境の悪化は、もはや単なる環境問題ではなく、経済活動の継続を左右する重大な「経営課題」となっているのです。
昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)との関係
世界がネイチャーポジティブへと舵を切った背景には、国際的な大きな約束事があります。それが、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」です。 (昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)とは)
2030年までに自然の損失を止め、反転させる
GBFは、気候変動における「パリ協定」の生物多様性版とも言える国際的な枠組みです。この中で、もっとも重要な中間目標として掲げられているのが、「2030年までに自然の損失を止め、回復軌道へと転換する(反転させる)」というものです。
GBFには23の具体的なターゲットが設定されています。その中には、陸と海の一定以上の割合を保全することや、企業に対して自然への影響を開示するよう求めることなどが盛り込まれており、国だけでなく企業への要請を強める大きな原動力となっています。
TNFDとの関係性と企業の実務対応
投資家や市場が企業を評価する視点も、近年で劇的に変わってきました。利益の大きさだけでなく、「この企業は自然環境とどのように関わっているのか」というプロセスが重視されるようになっています。
開示でネイチャーポジティブをどう示すか
そのための具体的な情報開示の仕組みが、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」です。簡単に言えば、企業が自然にどれほど依存し、どんな影響を与え、それがどのような経営リスクや機会をもたらすのかを整理して投資家に伝えるための国際的な枠組みです。
たとえば、大量の水を使用する企業が水不足のリスクをどう把握しているか、あるいは海洋資源や森林資源を利用する企業が供給の減少にどう備えているかが評価されます。これらを適切に開示することが、企業の信頼性を高める時代になっています。
LEAPアプローチの概要
TNFDでは、企業が自然との関係をスムーズに整理できるよう、「LEAP(リープ)アプローチ」というステップを提唱しています。
難しく感じるかもしれませんが、まずは「自分たちの仕事は、どのような自然環境に支えられているのだろう」と見つめ直すことが、ネイチャーポジティブへの第一歩となります。
海洋分野におけるネイチャーポジティブ
ネイチャーポジティブと聞くと、植林などの「森を増やす」活動をイメージしがちですが、日本において決して忘れてはならないのが「海」の存在です。
四方を海に囲まれた日本だからこその視点
日本は世界有数の海洋国家であり、漁業や水産業はもちろん、海運、港湾、物流、観光、そして洋上風力発電に代表されるエネルギー産業まで、多くのビジネスが海の恩恵の上に成り立っています。
しかし現在、海では海水温の上昇や海洋プラスチックごみの増加、さらには藻場や干潟の減少といった深刻な環境変化が起きています。海の環境悪化は、それに依存するあらゆる産業の存続リスクに直結します。だからこそ、海を知り、海を守り、海を再生していく「海のネイチャーポジティブ」への取り組みが急務となっているのです。
海洋環境の見える化なら、株式会社シーチャレンジへ
ネイチャーポジティブの実現には、まず現状を正しく把握する「可視化」が必要です。当社は、高度な海洋調査や海洋DX技術を通じて、目に見えない海の環境データを捉え、企業と海洋環境が共生できる未来づくりをサポートしています。「自社の事業と海の関わりを調べたい」「環境アセスメントの相談をしたい」など、海洋環境に関する課題がございましたら、どうぞお気軽に当社までお問い合わせください。
参考文献
- 昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)
- TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)公式サイト
- 環境省 生物多様性「30by30」
- 環境省 ネイチャーポジティブ特設ページ
- 世界経済フォーラム(WEF)「Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy」
今回は、ネイチャーポジティブの基本概念と世界的な枠組み(GBF・TNFD)について解説しました。次回は、日本の国家目標である「30by30」や、民間企業が関わる「OECM」、そして当社が推進する「海のネイチャーポジティブ」について詳しくご紹介します。
後編「ネイチャーポジティブ ~国内の最前線『30by30』と海洋環境を守るサステナブル経営~」へ続きます。
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