
災害が起きたとき、まず注目されるのは被害の様子そのものです。
ですが、海と構造物にかかわる仕事をしていると、災害が来る「前」にどれだけ予防点検ができていたかということも、同じくらい重要だと感じています。
今回は、点検会社である当社SeaChallengeに「何ができるのか?」ということを、予防点検というテーマから考えてみたいと思います。
港湾施設の維持管理や修繕計画に携わる方、これから設備投資を検討されている方々にとっても、参考にしていただければ幸いです。

老朽化する港湾施設と予防点検の必要性
港湾施設は、多くが高度経済成長期に整備されたものです。老朽化が進む中、予防点検の重要性はますます高まっています。
建設後50年を超える港湾岸壁の急増
国土交通省の資料によると、建設後50年以上経過する港湾岸壁の割合は、2018年3月時点で約17%でしたが、2033年3月時点ではそれが約58%まで増加すると見込まれています(対象は全国約5千の港湾岸壁)。
| 時点 | 建設後50年以上経過する港湾岸壁の割合 |
| 2018年3月 | 約17% |
| 2033年3月(見込み) | 約58% |
(出典:国土交通白書 令和2年版「老朽化インフラの増加」/対象は全国約5千の港湾岸壁)
港湾施設の耐用年数と老朽化のタイミング
「建設後50年」という区切りは、老朽化に関する統計で広く使われている目安で、高度経済成長期に整備された港湾施設の多くが、この節目を迎えつつあります。
だからこそ老朽化への対応が急務となっているのです。
塩害と目視できない劣化
港湾の施設は、塩害など厳しい環境下に置かれ、海中部は目視で劣化・損傷の状況を把握しにくいという特有の難しさを抱えています。
実際に、鋼管杭の腐食が進行して杭が破断した事例や、鋼矢板が腐食して穴が開き、裏込め土が吸い出された事例、鉄筋の腐食によってコンクリートが剥離した事例などが、国土交通省の資料でも報告されています。
こうした劣化は、水面下という見えにくい場所で静かに進行するからこそ、発見が遅れれば大事故につながりかねません。
だからこそ、専門的な予防点検が欠かせないのです。

点検は「壊れてから」ではなく「壊れる前」のための予防点検
港湾施設の予防点検には、目的や周期の異なる仕組みがあります。
まずは全体像を整理しましょう。
予防保全と事後保全の違い
点検・保全の考え方には、大きく分けて「予防保全」と「事後保全」があります。
予防保全とは、施設の機能不全や著しい劣化・変状の発生を未然に防止するために、規定の間隔や基準に従って点検等を実施し、機能不全や機能低下の確率を低減するための保全となります。
一方、事後保全とは、劣化や変状が顕著になった段階で、施設を要求される機能まで修復させるための保全を指します。
一般定期点検診断と詳細定期点検診断の違い
国土交通省の点検診断ガイドラインでは、港湾施設の点検を「一般定期点検診断」と「詳細定期点検診断」に分けて定めています。
陸上や海上からの目視による一般定期点検診断は、5年以内ごと(重点点検診断施設は3年以内ごと)に実施。
一方の潜水による詳細定期点検診断は、通常の施設で供用期間中に少なくとも1回。重点点検診断施設では10〜15年以内ごとに少なくとも1回(主要な航路に面する施設は10年以内ごと)というように、より長い周期で踏み込んだ調査を行うことが求められています。
点検診断項目の3つの分類
点検診断の項目は、施設の性能への影響度に応じて3つに分類されています。
施設全体の移動や沈下など、構造上の安全性に直接影響する項目を「Ⅰ類」、鋼部材の防食工など、放置すると徐々に性能に影響が及ぶ項目を「Ⅱ類」、防舷材や係船柱など、利用に支障をきたす附帯設備を「Ⅲ類」として整理し、それぞれの重要度に応じて点検を実施していきます。
当社SeaChallengeが担う4つの予防点検業務
当社SeaChallengeが担っているのは、主にこの潜水による詳細な調査の部分です。
業務は大きく分けて4つ。
- 目視・撮影・磁気探査などによる「調査・点検」:構造物表面の変状やひび割れ、腐食の兆候を確認。
- 超音波厚さ計や電気防食評価による「測定・試験」:鋼材の板厚や防食状態を定量的に把握。
- 足場設置や落下物回収などの「水中作業」:点検や補修に必要な作業環境を整える。
- マッピングや経年比較による「データ解析・報告」:取得したデータを整理し、劣化の進行を可視化。
また、20年以上にわたり潜り続けてきたベテランの潜水士が在籍していることも当社の強みです。
こうした記録の蓄積は、施設ごとの劣化の進み方の「くせ」を把握することにつながり、次にどこを重点的に見るべきかの判断材料になります。
水面下の視界が悪い場所や潜水士が入りにくい狭小部もあるので、水中ドローン(ROV)などの最新技術を取り入れ、調査に組み合わせています。

予防点検が発注者にもたらす価値
当社が予防点検で記録したデータは、日々の備えだけでなく、発注者側の意思決定においても役立てていただいています。
修繕の優先順位づけと予算計画への活用
点検で蓄積したデータは、修繕の優先順位づけや予算計画の重要な判断材料。
老朽化が進む前に劣化の「くせ」を把握しておくことで、長期的な維持管理コストの抑制にもつながるのです。
予防保全への転換で見込まれるコスト削減効果
国土交通省の推計によると、道路・河川・港湾など所管12分野の施設について、劣化が進んでから対応する事後保全型の維持管理を続けた場合に比べ、予防保全型へ転換することで、維持管理・更新費は5年後・10年後・20年後の時点で約3割、30年後には「約5割減少」すると見込まれています。
老朽化が進む前に予防点検を重ね、計画的に修繕することは、施設を長く安全に使い続けるだけでなく、長期的なコスト抑制にもつながる取り組みなのです。
港湾局の資料では、港湾ごとに予防保全計画を策定することで、施設ごとの老朽化状況を一覧・比較できるようになるほか、個々の施設の「ライフサイクルコストの縮減」「延命化」「修繕の優先順位づけ」「各年度の事業規模の平準化」といった効果が期待できるとされています。
専門性を持つ点検会社と連携する意義
国土交通省のガイドラインでも、詳細点検診断など専門的な知識や高度な技術・技能が必要な点検を効率的かつ効果的に行うためには、専門技術者の意見を聴取し、必要な助言・指導を受けることが重要だとされています。
この専門技術者として、海洋・港湾構造物維持管理士の資格を有する者などが挙げられており、厳しい環境下に置かれ、部材の多くが水中や土中にある港湾施設の点検には、専門的な知識・経験が欠かせません。
国土交通省が2012年に実施したアンケート調査では、技術力の低下や技術者不足により、施設点検が十分に実施できていない地方公共団体の割合が約5割にのぼるという結果が示されています。
専門的な知識と経験を持つ点検会社と連携することは、こうした技術者不足を補い、点検の質を維持するための有効な選択肢の1つだと考えています。
点検データをBIM/CIMで資産管理に活かす
当社SeaChallengeでは、潜水調査で得たデータを3次元モデル化し、BIM/CIM形式で整理することにも対応しています。
点群データとして施設の形状を記録しておくことで、経年変化の比較や補修設計への活用など、長期的な資産管理に役立てていただくことができます。
現場に立ち続けて思うこと
点検の仕事は、目立つ成果が形になりにくい仕事です。
何も起きなければ「何もしていない」ように見えてしまうこともありますが、それでも、水面下に潜り、構造物の状態を1つひとつ確かめる時間の積み重ねが、災害時の被害を小さくする備えになっていると当社は考えています。
小さな変化を見逃さず記録し続けることは、発注者の皆さまと長期的な信頼関係を築くことにもつながると、日々の点検を通じて感じています。

まとめ
港湾岸壁の老朽化は今後急速に進むと見込まれている(2018年約17%→2033年約58%)
水面下の劣化は目視で気づきにくく、専門的な予防点検が欠かせない
一般定期点検診断(5年/3年ごとの目視点検)と、詳細定期点検診断(供用期間中1回〜10〜15年ごとの潜水調査)は、異なる周期・深さで役割分担されている
当社は調査・点検/測定・試験/水中作業/データ解析・報告の4業務で、予防点検としての詳細な記録を蓄積している
予防保全型の維持管理へ転換することで、長期的な維持管理・更新費を大きく抑制できる可能性がある
予防点検の記録は、修繕の優先順位づけや予算計画の判断材料としても活用できる
派手さはなくとも、日々の予防点検の積み重ねが災害時の備えになる
港湾施設の予防点検・老朽化対策についてのご相談、お見積りは、当社までお気軽にお問い合わせください。
予防点検の頻度や範囲の設計、既存データの整理など、どのような段階のご相談でも構いません。

考文献
- 国土交通省「港湾の施設の点検診断ガイドライン」
- 国土交通白書 令和2年版「老朽化インフラの増加」
- 国土交通省「予防保全の促進に向けた取組」
- 国土交通省「港湾施設の維持管理の現状と課題」
- 「港湾」2014.1 国土交通省港湾局技術企画課「予防保全」解説
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