豪雨と高潮の夜、港では何が起きているのか?

Port terminal with tall orange gantry cranes along a pier, blue sea to the left and stacked shipping containers in the foreground and background.

令和 8 年 8 月の千葉豪雨は港湾施設の調査を行っている当社 SeaChallenge にとっても、決して他人事ではありません。
ニュースでこうした各地の浸水映像を見るたびに、頭の片隅では、いつも自分たちが普段点検している構造物のことを考えてしまいます。

Road blocked by floodwaters with trees standing in muddy water under a blue sky and scattered clouds.

今回、国土交通省の被害報告を見ても、港湾施設そのものに大きな被害が出たという報告はありませんでしたが、港や護岸が豪雨や高潮に対して常に安全だという保証にはならないと、現場で調査をしてきた立場から感じています。

実際、過去には想定を超える高波によって、港湾施設そのものが壊れてしまった例もあります。
2019年の台風15号のときは、横浜市金沢区の福浦地区で護岸の上部工(パラペット部分)が約600mにわたって倒壊し、隣接する幸浦地区とあわせて国道357号東側の約3.92平方kmが浸水し、500弱の事業所に影響が及びました。

護岸は一見、頑丈なコンクリートの壁のように見えますが、「絶対的に壊れない」ということはなく、想定を超える力が繰り返しかかれば、もちろん壊れる確率は増します。
しかも、一度大きな力を受けた構造物は、たとえ見た目が保たれていたとしても、その後の点検はこれまで以上に注意して実施しなければならないでしょう。

それは、応急的な復旧で機能は保ったとしても、次に同じような規模の災害が起きたときに、以前と同じだけの強度が残っているとは限らないからです。

Dramatic seascape: dark clouds above a choppy ocean with sunbeams breaking through to the horizon

では、豪雨と高潮が重なったとき、港湾施設の「海の中」では具体的にどんなことが起きる可能性があると思いますか?

国土交通省が定める港湾の施設の点検診断ガイドラインでは、消波ブロックや被覆工、根固工といった水中部の構造物について、目視で移動・散乱・沈下などの変状がないかを確認し、変状の要因分析や劣化の進行予測に必要なデータを集めることが求められています。
つまり、水中部は目に見えない場所だからこそ、意識的に見に行かなければ異常に気づけない、ということなのです。

ここで、当社が調査を行う中で実感することを、いくつか挙げてみましょう。

まずは高潮や高波が護岸や防波堤を越える「越波」。想定していた高さを超えた波が構造物を乗り越えると、背後の地盤や道路に、水が一気に流れ込みます。

護岸そのものが壊れていなくても、越えた水の勢いで背後の土砂が洗い流される「洗掘」が進むことがあります。
この洗掘は水中で静かに進行するもので、陸上からの目視だけでは気づきにくいというのが厄介なところです。

護岸や桟橋の基礎は、普段の波であれば安定していても、強い流れや繰り返しの波力で、少しずつ劣化していきます。
目に見える上部構造に異常がなくても、水中の基礎は別の話といえます。

次に、大量の雨水が短時間で海へ流れ込むことによる、排水施設への負担です。
今回の豪雨でも下水道のポンプ場が浸水で機能停止した例が報告されていましたが、港湾エリアの排水機能が追いつかなくなると、内水氾濫という形で陸側にも被害が広がります。

排水がうまく機能しない状態が続けば、護岸の裏込め材(裏側の土砂)にも水が溜まり、地盤の緩みにつながることもあります。

もう 1 つ、見落とされがちなのが漂流物による衝撃です。
豪雨で増水した河川からは、流木や倒木、さらには漁具や小型の船舶までもが海へ流れ出てきます。
これらが強い流れに乗って護岸や岸壁の水中部にぶつかると、コンクリートの表面が欠けたり、鉄筋が露出したりすることがあります。

海上を漂う様子は目に入りやすいのですが、水面下でどこにぶつかり、どんな傷を残したのかは、実際に潜って確認しない限り分からないのです。

こうした変化を確認する方法は、大きく分けて 2 つあります。

1つ目は潜水士による目視確認です。実際に水中に入り、構造物の表面や基礎の状態を直接見て、触れて確認します。

2つ目は、深浅測量やナローマルチビーム測深機による水中部形状調査です。
海底地盤全体の形状をデータとして記録し、以前の測量結果と比較することで、目に見えない変化を数値として捉えることができます。

そしてこの両方を補うことができるのが水中ドローンで、危険な場所や広い範囲を効率よく確認する手段として、当社の調査でも存分に活躍してくれています。

近年は、これまでの想定を超える規模の豪雨や高潮が、全国各地で以前より頻繁に報じられるようになった印象があります。

だからこそ、それぞれの災害を個別の出来事として片付けるのではなく、「次はどこで起きてもおかしくない」という前提で、日頃の点検体制を見直していく必要性を感じています。

異常が表面化してから調べるのではなく、平常時から水中の状態を記録しておくこと。
それが、実際に何かが起きたときに「どこがどう変わったのか」を判断する材料になるのです。

被災前の状態を数値やデータとして残しておくことは、いざというときの復旧計画を立てるうえで大きな助けにもなります。

当社では、「災害が起きたときにどう動くか」だけでなく、「災害が起きる前にどれだけ記録を残しておけるか」も同じように大切な事だと考えています。
同じ場所を、同じ手法で、時間を空けて繰り返し調査しておく。
そうすることで、豪雨や台風のあとに再調査したとき、変化があった場所とそうでない場所を、感覚ではなくデータで見分けられるのです。

派手さのない作業ですが、いざというときに一番役立つのは、こうした地道な積み重ねだと、現場へ出るたびに感じています。

Underwater scene with a scuba diver swimming to the right of a circular SeaChallenge logo featuring a rainbow heart between green leaves.



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宮崎健
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