
ブルーカーボンの定義・生態系の種類・注目される背景を理解したところで、後編では、日本唯一のブルーカーボン専用クレジット制度である「Jブルークレジット」の仕組み・認証プロセス・取引価格の動向を整理したうえで、国内企業・自治体の最新活用事例と今後の展望を解説します。
Jブルークレジット制度の仕組み
「Jブルークレジット」とは、JBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)が独立した第三者委員会の審議を経て認証・発行する、日本独自のブルーカーボンクレジットです。
※ブルーカーボンクレジットとは二酸化炭素の量を数値化し、取引可能な「排出権(クレジット)」にした仕組み。
2020年度の運用開始以来、認証件数・認証量ともに右肩上がりで拡大し、2026年3月にはGX-ETS(GX排出量取引制度)第1フェーズの「適格カーボン・クレジット」としても正式承認されました。※のべ52のプロジェクト[JBE/2026年3月]。
認証プロセスと申請主体
Jブルークレジットの認証は以下のステップで進みます。
| ステップ | 内容 | 担い手 |
| ① 事前相談 | JBE運用システムに登録・相談を開始 | プロジェクト申請者 |
| ② 申請書類作成 | プロジェクト登録申請書・吸収量算定資料の準備 | 申請者(専門家支援が多い) |
| ③ 本申請 | Jブルークレジット運用システムより提出 | 申請者 |
| ④ 審査 | 5名の独立委員による「審査認証委員会」が審議 | JBE |
| ⑤ 認証・発行 | 審議通過後、クレジット管理簿に登録・発行 | JBE |
| ⑥ 購入公募 | JBEが購入希望の法人を公募(指定単価入札方式等) | JBE・購入希望法人 |
JBEと国土交通省の資料によると、申請プロジェクトの86.9%に漁業者が参画。自治体(67.2%)・民間企業(55.7%)との連携体制で申請するケースが多数を占めています。
これを購入できるのは国内法人のみ。
個人・外国法人は対象外であり、購入後の転売(再譲渡)も認められていません。
例えば令和8年度中の新規認証・発行を希望する場合は、2026年7月31日までの事前相談開始・2026年9月30日までの本申請完了が目安とされています。
認証案件数と取引価格の推移
Jブルークレジットの認証実績は年々拡大し、2022年度以降は年複数回の認証・発行が実施されています。
| 年度 | 認証サイト数 | 認証量(t-CO₂) |
| 2020年度 | 1 | 22.8 |
| 2021年度 | 4 | 80.4 |
| 2022年度 | 21 | 3,733.1 |
| 2025年度 第3回(1回分) | 33 | 約2,900以上 |
[JBE/Jブルークレジットクレジット管理簿、国土交通省資料]
取引価格については、JBEが実施する公募では指定単価入札方式等が採用されており、公定価格は設定されていません。
東京証券取引所「カーボン・クレジット市場」でのJクレジット価格は、2026年5月時点で再生可能エネルギーが約5,000〜6,000円/t-CO₂で推移しています[JPX/2026年]。
このようにJブルークレジットは希少性・生態系価値の高さから、相対取引では高値で取引される傾向があります。

ブルーカーボンの企業活用事例
ブルーカーボンへの企業の関わり方は創出側(プロジェクト実施・認証取得)と、購入側(クレジット購入によるオフセット)の2種類となります。
【創出側】プロジェクトを実施してクレジットを認証・取得する
関西エアポート株式会社は「関西国際空港 豊かな藻場環境の創造」プロジェクトで、2022~2025年度の3か年で「280.3 t-CO₂」のJブルークレジット認証を取得しました。[JBE発行/2026年3月]
空港建設時に造成された人工海域での藻場環境を活用した、インフラ企業ならではのモデルです。
また、JFEスチール株式会社は広島大学・中国電力・福山市と連携し、製鉄副産物である鉄鋼スラグ製品を用いた干潟造成プロジェクト「福山港内港における再生資源による干潟づくり」で「17.6 t-CO₂」のJブルークレジット認証を取得しました。[JBE発行/2025年12月]
資源循環とブルーカーボン創出を統合したアプローチとして、製造業での新たなモデルを示しています。
さらに、富士通株式会社は、海洋デジタルツイン技術を活用したブルーカーボン定量化システムを開発し、一般社団法人宇和海環境生物研究所・愛媛県漁業協同組合吉田支所・宇和島市と連携して宇和海でのJブルークレジット認証を取得しています。
これは従来比100倍の速度で藻場の計測・定量化を実現する技術を実証した異業種参画モデルです。[富士通プレスリリース/2025年11月]
【購入側】クレジットを購入してCO₂排出量の削減に活用する
セブン‐イレブン・ジャパンは、2011年度から東京湾のアマモ場再生活動に取り組んでおり、Jブルークレジットの購入を通じてクレジット創出者である横浜港における藻場づくり活動の活性化・持続可能性の向上に貢献。小売業界における早期参画事例として広く知られています。[セブンイレブンジャパン公式サイト]
また、自治体連携の事例としては、横浜市・横浜市漁業協同組合・八千代エンジニヤリング・幸海ヒーローズ合同会社が共同で「大都市圏横浜における環境再生型海藻養殖によるおさかなの街づくりプロジェクト」を推進し、「0.4 t-CO₂」のJブルークレジット認証を取得しました[JBE/2026年2月]。
こちらは都市部の海域再生と地域ブルーカーボン創出を組み合わせた公民連携モデルです。

課題と今後の展望
ブルーカーボンは大きな可能性を持つ一方で、実用面での課題も残されています。
方法論の標準化とVCMとの接続
現在のJブルークレジット認証申請の手引きはVer.2.6(2026年3月版)まで改訂が重ねられ、制度は着実に成熟しています。
一方、海藻藻場については国際的なIPCC方法論が未確立であり、海外のボランタリークレジット(Verra/VCS等)では認証対象とされていないのが現状です。
2026年3月にJブルークレジットがGX-ETSの適格クレジットとして承認されたことで、国内の取引市場との接続は強化されたことで、今後は、国際的なボランタリーカーボン市場との相互承認が課題とされています。
これで国際的な認知度が高まれば、海外投資家からの資金流入も期待できます。
申請コストの高さも実用面での障壁の1つ。
専門家報酬・調査費等の回収が難しい小規模プロジェクトも多くあるため、複数の漁協・自治体によるコンソーシアム型の申請や、デジタル技術を活用した計測コスト低減が普及の鍵となると考えられています。

まとめ
ブルーカーボンについて前後編で解説しました。
脱炭素への貢献に加えて、生物多様性の保全や水質浄化、防災といった複合的な価値(コベネフィット)を生み出す点でも、この分野は企業や自治体から高く注目されています。
日本独自の「Jブルークレジット」制度も拡大しており、企業は、インフラやIT技術を活用して自治体と連携しプロジェクトを実施する「創出側」や、オフセット目的の「購入側」として、今後も積極的に参画が進められるでしょう。
当社SeaChallengeでは、港湾・沿岸域における調査・点検の現場で、ROV(水中ドローン)・UAV(空中ドローン)・水上ドローンを用いた藻場・干潟の調査も行っています。
まず、藻場の分布や密度に関しては同じ海域でも季節・年によって大きく変動することが多く、単年度の調査だけでは吸収量の正確な算定が難しいケースがあります。
Jブルークレジットの認証には「ベースライン(活動前の状態)との比較」が求められますので、継続的なモニタリングデータの蓄積がその精度を左右するといえるでしょう。
次に、水中での視界確保の難しさです。濁度(水の濁り)が高い環境では、ROVのカメラ映像だけでは藻場の全体像を把握しきれない場合があります。
そのため当社では、濁水カメラなど、ROVと海洋機器を組み合わせることで、より鮮明なデータ取得に努めています。
Jブルークレジットの認証申請を検討されている漁業者・自治体・企業の皆さまにとって、現地調査の質がそのまま認証精度に直結します。
測定手法の選定から調査計画の立案まで、ぜひ当社にご相談ください。
参考文献
・Donato, D.C. et al.(2011)「Mangroves among the most carbon-rich forests in the tropics」Nature Geoscience, 4, 293–297.
・環境省(2024年4月)「2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について」
・ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)「Jブルークレジット®認証・発行について」
・ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)「Jブルークレジット®認証申請の手引き Ver.2.6(2026年3月)」
・ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)「GX-ETS(第1フェーズ)における適格カーボン・クレジットとしての承認・登録について」(2026年3月13日)
・関西エアポート株式会社「新たにJブルークレジット認証を取得」(2026年3月19日)
・JFEスチール株式会社「鉄鋼スラグ製品を活用した干潟にてJブルークレジット認証を取得」(2026年3月23日)
・富士通株式会社「藻場のブルーカーボンを効率よく定量化する海洋デジタルツイン技術を開発し、Jブルークレジット®認証を獲得」(2025年11月26日)