ブルーカーボンとは|Jブルークレジット制度の仕組みと企業の活用事例【前編】

ブルーカーボンとは、海草藻場・マングローブ・塩性湿地などの沿岸・海洋生態系が光合成によって吸収し、土壌や堆積物中に長期貯留する炭素のことです。
これは陸上の森林が固定する「グリーンカーボン」と対比して使われる概念で、2009年にUNEP(国連環境計画)が命名しました。
そして近年、脱炭素経営やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応を迫られる企業・自治体の間で、ブルーカーボンへの関心が急速に高まっています。
その理由は単純な「CO₂吸収」にとどまらず、生物多様性・防災・漁業振興といった複合的な価値(コベネフィット)を同時に生み出せる点にあります。

本記事では、前編でブルーカーボンの定義・生態系の種類・注目される背景を整理しながら、後編はJブルークレジット制度の仕組みについて、詳しく解説していきます。

ブルーカーボンとは|定義と注目される背景

ブルーカーボンという言葉は、気候変動政策の文脈で使われ始め、日本でも2020年代に入ってから急速に認知度が高まりました。

IPCCにおける定義

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2013年に公表した「2006年IPCCガイドライン補足版:湿地」において、マングローブ・塩性湿地・海草藻場の3生態系を、温室効果ガスの吸収・排出を算定すべきブルーカーボン生態系として正式に位置づけました。

この意義としては、各国の温室効果ガスインベントリ(国別排出量統計)にブルーカーボンを算入するための、国際的な方法論が初めて確立された点にあります。
そしてこれ以降、主要国がパリ協定に基づく国別削減目標(NDC)にブルーカーボンを盛り込む動きが加速していったのです。

また、IPCCが示す特徴として特に重要なのが、炭素の貯留期間の長さです。
海草藻場や塩性湿地の土壌・堆積物に蓄積された炭素は、酸素の乏しい環境のため分解されにくく、数百年から数千年にわたって安定的に保持されると考えられています。

グリーンカーボンとの違い

「グリーンカーボン」とは、陸上の森林・草地・農地が固定する炭素を指します。

比較項目グリーンカーボンブルーカーボン
主な生態系森林、草地、農地海草藻場、マングローブ、塩性湿地、海藻藻場
単位面積あたりの貯留速度比較的低い森林に匹敵またはそれを上回るとされる
貯留の安定性火災・伐採リスクあり嫌気性土壌により長期安定
国際基準の整備整備済み整備途上(海藻藻場は未確立)
日本の主な制度J-クレジット(森林)などJブルークレジット(JBE)

ブルーカーボン生態系は陸上森林に比べて総面積こそ小さいものの、単位面積あたりの炭素吸収・貯留効率が高いことが特徴です。

また、いったん貯留された炭素は土壌中の嫌気的環境によって安定保持されるため、森林のように、火災や伐採によって炭素が一気に大気中へ放出されるリスクが相対的に低いとされているのです。

ブルーカーボン生態系の4分類

ブルーカーボン生態系は大きく4種類に分類され、それぞれ生育環境・炭素吸収の仕組みや、日本における現状は異なります。
国際的に認められている3分類(マングローブ・海草藻場・塩性湿地)に加え、日本では海藻藻場を独自の対象として研究・制度化が進んでいます。

マングローブ林

マングローブ林とは、熱帯・亜熱帯の海岸・河口部に生育する常緑樹林の総称。
複雑に絡み合った根と地下茎の構造が炭素を豊富に含む有機物の蓄積を促します。
太平洋地域のマングローブ林の地中炭素蓄積量は、亜寒帯林・温帯林・熱帯高地林の3~4倍以上に達するという研究報告もあり、高い炭素貯留ポテンシャルを持つ生態系として注目されています。

日本では沖縄県・鹿児島県の一部に分布しているものの、アジア・アフリカ・中南米では開発や沿岸侵食による消失が続いており、国際的なブルーカーボンプロジェクトではマングローブの保全・再生が主要な対象となっています。

海草藻場(うみくさもば)

海草藻場とは、アマモ・コアマモなどの海草(種子植物)が群生する浅海域の生態系のことを指します。
海藻と異なり、根・茎・葉を持つ維管束植物であり、地中に根を張ることで堆積物中に炭素を長期固定します。
「海のゆりかご」とも呼ばれるように、稚魚・稚貝の育成場として漁業との親和性が高く、Jブルークレジットの認証案件でも最も多く対象となっている生態系です。

例えば「浜名湖ワンダーレイクプロジェクト」は2025年度第3回の認証で「639.9 t-CO₂」のクレジットが認証されており、単一プロジェクトとしては最大規模のひとつです。[JBE/2026年2月]

塩性湿地(えんせいしっち)

塩性湿地とは、潮汐の影響を受ける沿岸湿地にヨシ・シオクグなどの塩生植物が生育する生態系を指し、土壌中に有機物が蓄積されやすく、高い炭素貯留能力を持つとされています。

日本では干潟・沿岸湿地の多くが高度経済成長期以降の埋め立てによって失われており、残存する塩性湿地の保全は、生態系サービスの回復という観点からも急務とされています。

海藻藻場(かいそうもば)※日本固有の論点を含む

海藻藻場とは、コンブ・ワカメ・ガラモ(ホンダワラ類)などの大型海藻が密生する岩礁地帯の生態系。

日本は世界有数の海藻藻場面積を持っており、特に北海道・三陸沿岸のコンブ場は炭素吸収ポテンシャルが高いとされています。

ただし、この海藻藻場はIPCCの国際的な算定方法論では、現時点で対象外になります。
その理由として、光合成で固定した炭素が最終的に大気中や深海へ戻る経路が複雑で、長期的な純貯留量の定量が難しいことが挙げられます。

日本ではJBEが独自の方法論を開発・適用しており、コンブ・ワカメ養殖を対象とする案件がすでにJブルークレジットとして認証されています。

#image_title

なぜ今ブルーカーボンが注目されるのか

近年、ブルーカーボンへの関心が急速に高まっています。
それは、CO₂吸収・貯留のポテンシャルに加え、複合的な社会的便益(コベネフィット)が評価されているためです。

GHG吸収量とポテンシャル

環境省が国連へ報告した2022年度のデータによれば、日本の海草藻場および海藻藻場による年間CO₂吸収量は「約35万t-CO₂」と、世界で初めて合算算定・報告されました。[環境省/ 2024年]

日本の温室効果ガス総排出量(約11億3,500万t-CO)と比べると、現時点ではまだ小さい規模ですが、塩性湿地・干潟の算定がまだ含まれておらず、今後数値はさらに拡大するでしょう。

また、全国的な「磯焼け」(海藻・海草の大規模消失)の進行により、潜在的な吸収源がすでに失われつつある点も注目すべきところです。

磯焼けの主な要因はウニの増加・水温上昇・栄養塩不足などとされており、生態系を回復させることがそのままブルーカーボン創出につながるのです。

生物多様性・防災との同時便益(Co-benefits)

ブルーカーボン生態系の保全・再生は、気候変動緩和(CO₂吸収)以外にもさまざまな価値を生み出します。

便益の種類具体的な効果
生物多様性稚魚・稚貝の育成場確保、希少種の生息地保護
水質浄化有機物・栄養塩の除去、赤潮・貧酸素水塊の抑制
防災・沿岸保護波浪・侵食の緩和、高潮時の緩衝機能
水産資源漁業対象種の増加、養殖業との相乗効果
観光・教育エコツーリズム、環境学習の場としての活用

こうしたコベネフィットは、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の開示枠組みにおける「自然資本」の保全・回復としても評価対象となりつつあり、気候変動対策と生物多様性保全を同時に達成できる手段として、注目が集まっています。

#image_title

まとめ

カーボンニュートラルの観点から世界中で注目されているブルーカーボン。
日本独自の制度枠組みで対象化され海藻藻場が、国際標準とされるのか、今後も注目です。

後編では、Jブルークレジット制度の具体的な仕組み・認証プロセス・取引価格の動向、そして国内企業の最新活用事例を詳しく解説します。

参考文献

・IPCC(2013)「2013 Supplement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories: Wetlands」
・Donato, D.C. et al.(2011)「Mangroves among the most carbon-rich forests in the tropics」Nature Geoscience, 4, 293–297.
・環境省(2024年4月)「2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について」
・ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)「Jブルークレジット®認証・発行について」
国土交通省「ブルーカーボン(港湾局)」

上部へスクロール