インフラ点検は「安くすればいい」時代ではない
港湾やダム、下水道などの水中構造物は、日本の社会インフラを支える重要な存在です。
これらの点検には、専門性・安全性・精度のすべてが求められます。
近年注目される水中ドローン(ROV)は、こうした要求に応える新しい技術ですが、
「コストを大きく下げるための道具」としてだけ捉えるのは、現場を誤解してしまいます。
実際には、水中ドローン導入によって点検費用が大幅に下がるとは限りません。
それでも導入が進んでいるのは、“コスト以上の価値”を生み出しているからです。
導入の目的は“安さ”ではなく“最適化”
① 適正コストで、より多くの情報を得られる
ドローンにより、短時間で広範囲の映像記録が可能
潜水士では困難だった定点観測や比較記録が容易
結果として「調査の質」が高まり、改修や補修の判断材料が明確に
例:同じ作業時間・人員で「動画付き報告+経年比較データ」まで納品できるようになる
② 人手不足・属人化リスクの軽減
水中点検の担い手である潜水士の高齢化・不足が進む中、
操縦士の育成によって分業化と若手登用が可能に熟練の目視判断に依存せず、映像+データで裏付ける点検体制へ
技術継承・品質安定にも貢献
③ 安全性の底上げと現場負担の軽減
潜水を避けられる場面では、作業者のリスクを大きく低減
特に視界不良・低水温・強い流れなど高リスク環境下での第一アプローチとして有効
補助的な利用でも「人が入る前の確認」という意義がある
「安くなる」より「納得してもらえる」成果物をつくる
水中ドローンの最大の利点は、
報告書の裏付けとなる映像資料を、誰が見ても同じ視点で共有できることです。
静止画だけでは伝わらなかった洗掘の深さ
潮流で揺れた構造物の挙動
濁水環境下での現実的な限界
これらを動画で“見せる”ことで、発注者の納得感が高まり、信頼につながります。
また、同じ場所を年ごとに比較する経年劣化の可視化や、
CIMモデルへの反映など、アフターユースに強いデータ資産になる点も大きな魅力です。
潜水士と水中ドローンの共存がベストな解
潜水士が完全に不要になるわけではありません。
水中ドローンはあくまで「観察・記録のための目」であり、
打音調査やケレン作業などの物理的な点検・補修には人の手が必要です。
ただし、「潜るべきかどうかを判断する段階で活用する」
「人が入りづらい場所を事前に確認する」
といった運用により、作業計画自体が合理的かつ安全に変わります。
まとめ:価格競争ではなく“価値提案”の時代へ
水中ドローンは、「点検費用を安くするための道具」ではなく、
調査の精度・効率・安全性を高め、納得感のある成果物を提供するための手段です。
同じ費用で、より質の高い報告を
潜水士との使い分けで、最適なチーム運用を
経年比較や3D活用で、未来につながるデータを
ドローン導入は、点検の価値そのものを底上げする投資として考えるべき時代に入っています。