イオン化傾向とめっきの仕組みについて

イオン化傾向について

みなさんは「イオン化傾向」という言葉をご存じでしょうか?

私たちが日常で目にする金属製品は、時間が経つと表面に錆びが現れることがあります。これは、金属が空気中の酸素や水と反応して酸化する現象であり、腐食の一種です。錆びる速さは金属の種類によって異なり、例えば鉄は酸素と結びつくことで酸化鉄を生成し、茶褐色の錆びが生じます。この現象は、建造物や設備の耐久性に影響を及ぼすため、防錆対策が非常に重要です。

金属がどれだけ酸化されやすいかを示す指標として、「イオン化傾向」があります。イオン化傾向とは、金属がイオンになろうとする性質の強さのことを指し、酸化還元反応のしやすさを決定する要因の一つです。金属ごとにイオン化傾向の強さが異なるため、これが錆びやすさの違いを生み出します。例えば、亜鉛やマグネシウムは鉄よりもイオン化傾向が高いため、鉄よりも先に酸化しやすい性質を持っています。

上の図は、イオン化傾向が高い順に金属を並べたものです。

皆さんも「貴金属」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。イオン化傾向が低い金属を「貴な金属」、高い金属を「卑な金属」と呼びます。イオン化傾向が低く、酸化されにくい金属が「貴金属」として扱われるのは、この性質が背景にあるのです。

貴金属には、金や銀、プラチナといった美しく、腐食に強い金属が含まれます。これらの金属は錆びにくく、その輝きを長く保つため、古くから装飾品や高価な工芸品、または医療機器などにも重宝されています。その高い耐久性と美しい外観から、多くの人々に価値あるものとして認識され、時代を超えて利用されてきました。

イオン化傾向という性質を知ると、貴金属がいかに特別で、なぜ「貴」とされているのかが理解しやすくなります。このように、金属の腐食性の違いは私たちの身の回りの多くの物に影響を与え、またその価値にも関わっているのです。

めっきについて

金属の「イオン化傾向」を利用して、金属を腐食から守る手法があります。それが「めっき」と呼ばれる技術です。

めっきは、イオン化傾向が高い金属をイオン化傾向の低い金属の表面に薄くまとわせることで、腐食を防ぐ効果を発揮します。この保護層となる金属は、下地の金属よりも酸化されやすく、先に反応することで下地の金属を腐食から守るのです。さらに、この層によって電気的な結びつきが生まれ、保護力が強まります。

例えば、鉄に亜鉛をめっきする「亜鉛めっき」はよく知られた例です。亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が高いため、まず亜鉛が酸化し、鉄を長期間保護します。こうした技術は、橋や車体、パイプラインなど、耐久性が求められる多くの構造物や製品に利用されています。

この「めっき」と同様の原理を活用し、港湾施設を腐食から守るために「陽極」という物を取り付けることがあります。

港湾施設や海中構造物は、常に塩水にさらされているため、腐食のリスクが高く、耐久性が重要視されます。この陽極を用いることで、構造物を腐食から保護する陰極防食が実現しています。犠牲陽極が設置された施設では、陽極が先に酸化されることで、構造物そのものの腐食を抑える効果が期待できます。

私たちの業務では、この「陽極」がどれほど消耗しているかを調査し、定期的に確認することがあります。こうした調査によって、施設の劣化状態を把握し、必要な対策を講じることで、施設の長寿命化に貢献しています。

次回は、陽極の仕組みとその役割について、さらに詳しく解説していきたいと思います。

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